住居選択の経済学的考察:賃貸VS購入
賃貸VS購入なんて、ぐぐれば死ぬほど記事が出てくる。
一方、
- フローとストックが混在した議論
- 一般論に終始していて具体的な判断基準がない
- 好みの問題を(金額ベースに落として)定量的に比較したものがない
- 総額比較とかはあるけど、同じ物件に賃貸で住む場合と買い取る場合を比べてくれないとフェアでない
という点で全く納得できるものではなかった。
逆に、みんなはSUUMOとか読んで決められるの?
というわけで、以下では、「同じ物件を、賃貸と購入が選べる状況がある」として両者の比較を可能な限りフローで議論してみる。
結論
だいたい数年以上住むなら買った方が得
本論
以下では、年間のフローの観点を中心に賃貸と購入を比べる。
僕の場合、5年から10年住んで、家族構成やライフステージの変化に合わせて住み替えることを前提に購入を検討していた。
そのため、基本的には、「何年以上住むなら買ったほうが得か」というのがメインの比較テーマになっている。
よく比べられるのは、家賃とローン支払い額だけど、ローン支払い額はフローとストックが混ざった数字だ。
ここでは、僕が経済学的に比べるべきだと思うものを比べてみる。
賃貸
基本的には、家賃×12ヶ月分。
礼金とか更新費用とかも無視できないぐらい大きいけど、とりあえず無視。
この額は、都心だとだいたい物件価格の3%から4%ぐらいのようだ。
興味本位で市谷駅徒歩5分の新築億ションを見学に行ったのだが、販売員による説明では、物件価格12800万に対しての想定家賃は35万だそうだ。
35*12/12800 = 3.28%
一般に築年数が浅い方が利回りが低いので、この辺り(3.5%)を家賃のフローコストの下限としよう。
(収益物件検索サイト楽待で検索すると、都心の利回りは4%から5%のようだ。)
(少し先走るが、10年後の想定家賃も聞いてみたところ、30万と言われた。(35-30)/35 = 14.29%。年率だいたい1.4%の家賃下落を想定していたようだ。)
購入
購入で検討すべき要素は大きく分けて二つある。
- 取引に関わるFrictionからくるサンクコスト
- 毎年発生する実質的なフローのコスト
前者には、不動産取引に関わる費用と住宅ローンに関わる費用が存在する。
とりあえず、だいたい物件価格の10%ぐらいとされてる。
買って、将来的に売って住み替えることを前提にしているので、仲介手数料は2回分を想定している。
僕の場合、だいたい5500万円ぐらいの中古マンションを買ったのだが、不動産取引に関わる費用はだいたい以下のような感じだった。
- 仲介手数料: 3% + 3万円 x2回分 = 6%強
- 司法書士費用(登記含む): 1%弱
- 不動産取得税 : 1%弱
住宅ローンにかかる費用も結構馬鹿にならない。複数の銀行を比較することが重要だった。
まぁ、ざっくり全部で10%を見積もろうと思う。
ここで強調したい論点は、Friction(取引摩擦)がないような状況で発生するフローのコストをどう算出するか。
経済学的に考えると、フローのコストは「取引費用が0の状況で、物件をフルローンで購入し、一年後に売却して、ローンを返す」という思考実験をしたときにかかる費用として算出される。
この時、考えられる費用は四つある。
- 利子支払い
- 管理費・修繕積立
- 固定資産税
- 物件の経年減価
最初の三つは明らかだろう。物件の経年減価は、「市況が同じだったとして、今買ったマンションの市場価格が一年後に何%値下がりするか」に相当する。
抽象的な概念である一方、概念的な理解は容易だと思う。
一方、実際それをどう測るかが問題である。
ここでは、二つのアプローチをとる。
- 家賃が物件価格のファンダメンタルなので、経年劣化が家賃に与える影響から推測する
- 中古マンションの取引価格のデータから直接推計する
両者ともに完ぺきではないものの、まぁある程度妥当かなと思う。
家賃の経年減少
前者については、家賃は「10年で1割、20年で2割下がる」と一般的に言われているようだ。年率1%。
もう少しまともなレポートだと、三井住友トラスト基礎研究所の「経年劣化が住宅賃料に与える影響とその理由」や総務省統計局のレポート(PDF注意)がある。
前者を参照すると、最初の10年ほどは年率2%、その後は年率1%弱で家賃は下がり、平均すると大体年率1%下がるようだ。
マンション価格の経年減価
一方、マンションの取引価格を直接分析した方が適切かもしれない。
やはり、三井住友トラスト基礎研究所のレポート「中古マンション価格の経年減価率:鉄道沿線別比較」を参考にすると、どうやら場所によって大きく差があるようだ。都心ではだいたい年率1.5%弱といったところか。
物件の経年減価に関する結論
都心のマンション購入を検討するにあたっては、1.5%をベンチマークにしようと思う。
ただ、
- 場所や築年数によって数字が異なる(特に、場所は重要なようだ)
- 上記の推定値自体が、近年の市況による影響を受けており、内生性によるバイアスの可能性もある。
という点に留意する必要があると思う。
賃貸VS購入比較
やっと賃貸と購入を比較できる。全体的に(賃貸有利な方向に)Conservativeに計算しようと思う。
まず、賃貸のフローコストを3.5%としよう。
次に購入側
- おいおいの計算が楽なように住宅ローンの金利を0.65%とする
- 修繕積立金の概算が難しいが、例えば家賃の10%(20万の家賃で月2万)とすると、これは物件価格の3.5% x 10% = 0.35%
- 固定資産税は難しいんだけど、修繕積立を多めに見積もったからとりあえず無視
- 経年減価率を1.5%とする
合計で、2.5%。
つまり、フローコストでは年間あたり1%購入した方が得ということになる。
実際の購入に際して、物件価格の10%がサンクコストだとすると、だいたい10/1=10年住めば購入した方が得という計算になる。
賃貸有利な計算をしたつもりなので、実際にはもっと短く住んでも得だと思う。
想定利回り(年額家賃の物件価格に対する割合)を4%で計算すると6.7年で得になるし。
そもそも、物件取得のサンクコスト自体も6%から10%なので、そこも賃貸有利に見積もっている。
(住み替えなければ、売るときの仲介手数料3%は考えなくていいし。)
固定資産税は無視したけど、住宅ローン減税とか礼金・更新費用も無視したので、その辺は相殺扱いということで。
結論としては、ある程度長く住めば購入の方が得だと思う。各自のケースで上の数字を合わせればケースバイケースで比較しやすいと思う。
ただし、将来の市況の動向は完全に無視した分析であることを付け加えておく。
結論
フローとして比べるべきは、
賃貸側
- 想定利回り:月額家賃×12か月÷物件価格
購入側
- 住宅ローン利率
- 修繕積立金、固定資産税
- マンションの経年減価率
そして、そのフローの差と、サンクコストと何年住む予定かを比べることで、賃貸と購入のフェアな比較ができると思う。