経済学雑感

経済学者です。

住居選択の経済学的考察:賃貸VS購入 おまけ

前回の記事は、自分の意思決定の過程をトレースした内容を書いた。
一方、あんまり経済学的な感じもしないので、ちょっと経済学的なことを書いてみる。

イメージとしては、ミクロ経済学の期末試験で
「投資用区分所有マンションを購入する目的で銀行から融資を受ける場合の貸出利率を4%、住居用の購入のための住宅ローンの貸出利率は0.5%だとする。賃貸と住居用の物件購入を比べた時に、(自分や他者の住居に対する選好に関係なく)後者の方が得だと言えるような状況はあるか?理由とともに述べよ」
みたいなオープンクエスチョンがあったとして、どんな解答がありえるだろうか。


問いがあまりに漠然としているので、無数の解答が存在するだろう。
僕がここで使いたかったのは、「価格はマージナルな消費者のWillingness-to-Payで決まる」という需要と供給の基礎概念だ。

価格は、需要曲線と供給曲線の交点で決まる。逆に言えば、交点の周りの需要者と供給者以外は価格決定には関係ないのだ。
では、今自分が購入を検討している物件のマージナルな消費者とは誰か。
似たような物件を買っている人の中で、最もWillingness-to-Payが低い人だ。


ここで二つのパターンが考えられる。

購入を検討している物件は主に住居用に購入されている。

都心だったり、広い物件(70平米以上)の場合、僕のイメージでは結局買ってるのは実際に住む人のような気がする。
そういったケースでは、あまりこの考え方が役に立たない。
なぜなら、似たような物件を買っている人の中で、最もWillingness-to-Payが低い人のWillingness-to-Payを推察するのが難しいからだ。
多くの人は持ち家バイアスを持ってるように思う。他人の持ち家バイアスの金銭的な評価なんて、考えてもわかるものではない。
極端な話、「いくら払っても一戸建てに住みたい!」みたいな人が大多数を占めるマーケットでの価格は持ち家バイアスを多分に反映しているはずなので、自分にも持ち家バイアスがあり、なおかつそれが他の市場参加者より大きいという自覚がない限り、買うのは得策じゃないだろう。

購入を検討している物件は投資用に購入されているケースもある。

この場合、あまり深く考えなくても物件を買った方がいいように思う。
投資用の需要者が限界的な需要者である場合、彼のWillingness-to-Payは容易に推察できる。
なぜなら、投資用で買う以上、(家賃収入ー借入返済額)のフロー所得の割引現在価値がWillingness-to-Payであるはずだからだ。
そして、このことは、自分のWillingness-to-Payが価格より高いことを必然的に含意する。
住宅ローンが税制面でも利率の面でも優遇されている以上、例えば自分がその物件を買って自分に賃貸するという思考実験をした場合、限界的な需要者である投資家よりもリターンが高いことは明らかだろう。
賃貸で家賃を払い続けるケースと購入するケースを比べれば、購入の方が得なはずである。

結論

自分の検討している物件と似た物件が賃貸市場にも存在していて、ある程度投資用の市場でも取引されている場合、利率の面で投資家よりも有利な居住者にとってみれば、賃貸よりも購入が得なはずだ。
(そして、似た物件が投資用の市場でも流通しているかは、例えば楽待とかで調べることができる。)

他の市場参加者が合理的に行動していることを前提にすると、自分の意思決定のコストが減らせるという意味で経済学的な考察かなと思う。
一方、都心だったり一戸建だったりすると、収益物件として取引される割合は少ないっぽいので、あまり意味がない考察ともいえる。
そういう時は、諦めて自分のWillingness-to-Payをよく自問してみるしかない。