経済学雑感

経済学者です。

合併:学術文献

企業結合は経済学に限らずものすごくたくさん研究されている。
経済学に限っても、全体を完全に把握するのは僕には不可能だ。
とりあえず、頑張って少しまとめてみた。
(もともと英語でまとめていたので、やる気が出たら日本語にします。)

企業結合一般

銀行の合併

  • Focarelli and Panetta (2003, AER), https://www.aeaweb.org/articles?id=10.1257/000282803769206241
    • イタリアの銀行合併のデータを使って、合併や競争が預金金利に与える影響を見ている。
    • 短期では預金金利が下がる(消費者にとって好ましくない)けど、長期的には預金金利が上がる
    • M&Aによるシナジーが実現するのには時間がかかるから、短期と長期で影響が違うという主張
    • 具体的なメカニズムに関しては言及していない
  • Allen et al (2014, AER), https://www.aeaweb.org/articles?id=10.1257/aer.104.10.3365
    • カナダの銀行合併のデータを使って、住宅ローン市場への影響を見ている。
    • 合併によって競争の度合いは下がるが、結果として(1)住宅ローン利率の(銀行間の)ばらつきは小さくなる (2) 利率は上がる
    • 住宅ローン市場はサーチ市場だと考えられるが、サーチ理論から出てくるImplicationと整合的な結果になってる。
    • 識別のソースは、「銀行 A は地域 1 と 2 、銀行Bは地域1のみで営業しているとしている。AとBが合併したときに、Post-Mergerで利率の分布が地域1と地域2でどのように変化するかの差をみる」という感じ。
  • Erel (2011, RFS), https://doi.org/10.1093/rfs/hhp034
    • 合併によってローンスプレッドは減少する。Post-mergerの費用減少が大きいほどスプレッドの減少も大きい。
    • 合併した銀行同士の市場の(地理的な)重なりのローンスプレッドへの影響は単調ではない。
    • 市場の重なりが大きいほど費用減少も大きい。結果としてローンスプレッドも減少する。ただ、重なりが大きくなりすぎると、市場支配力が高まるせいか、ローンスプレッドは上昇に転じる。
    • FRBが持ってる機密データを使った研究。

Ex-post Merger Studies on Other Markets

Determinants of Mergers

Not much study. Some structural work. Generally, people follow the structural estimation of matching models as in Fox (2010, QE), https://onlinelibrary.wiley.com/doi/abs/10.3982/QE823

  • One reduced form paper. Focarelli et al (2003, JMBC), https://www.jstor.org/stable/3270727
    • Looking at the Italian banking industry.
    • Studying how bank characteristics affect the likelihood of being a buyer or a target, but no pair characteristics.
    • Some post-merger analysis using balance sheet data.
  • Akkus et al (2015, Management Science), https://pubsonline.informs.org/doi/abs/10.1287/mnsc.2015.2245
  • Estimating a "merger value function".
    • Take the set of buyers and targets. Create all possible combination of them. The observed merger pair should give higher "utility," which identifies what characteristics of firms induces merger.
  • Uetake and Watanabe(2017, Working paper), https://papers.ssrn.com/sol3/papers.cfm?abstract_id=2188581
    • Estimate a two-sided matching model.
    • Unlike Akkus et al, some kind of externality (from competition) of merger is incorporated.
  • Those two structural papers adopt reduced form profit function and no "real" connection to subsequent market outcome.

Mergers in IO

コーポレートファイナンスの合併の論文

  • 死ぬほどうんこクオリティーの論文が多くて、とてもじゃないけど読む気にもまとめる気にもならない。
  • 一番多いのは、財務諸表のデータを使って雑に回帰式を推定している。
  • 全体的な印象としては、「結局ケースバイケース!」って感じ。

銀行合併:地銀再編

最近、地銀再編が話題だけど、そもそも銀行合併って何が問題なのか。
金融庁地銀の経営統合と独占禁止法の適用についてのメモを公開している。(PDF注意)
ここでは、自分の理解をメモ代わりにまとめてみる。(まだ未完で、時間があれば加筆しようと思っている。)

銀行に限らず、合併では

  • 合併による競争の減少
  • 合併による効率性の向上
  • 合併を促すことの是非

が主な論点になると思う。
あくまで経済学的な観点からの論点だけど。

合併の競争への影響

これも細かく分けると、いくつか論点がありえると思う。

  • 合併がどれぐらい競争を減少させるか。どの程度の合併なら許容するべきか
  • 銀行という市場特有の問題
    • 合併が競争に与えるのはどの市場なのか?
    • そもそも競争がある方が好ましいのか?

合併がどの程度競争を減少させるか

合併の価格への効果に関しては、たくさん先行研究がある。
結構まとめるのも大変なので、後日別の記事を書こうと思う。
「価格が上がるケースが多いようだけど、結構ケースバイケース」というのが僕の認識だ。
合併の他の効果(品質の低下など)については、あまりよく分かってないという理解だ。
(航空業界ではいくつか論文があるのを知っていて、「合併によって定時運行率が下がる」っていう研究があるようだけど、重要な問題に説得的に答えているという気はあんまりしない。一番説得的だと思ったのは、Paul J. Eliason, Benjamin Heebsh, Ryan C. McDevitt and James W Robertsが書いてるHow Acquisitions Affect Firm Behavior and Performance: Evidence from the Dialysis Industry。病院が買収されると、看護師のクオリティーを下げたり、利益率の高い薬を処方したりするようになるらしい。)

より実務上重要なのは、「どの程度、競争が阻害されることを許容すべきか」という点だと思う。
一般的には、HHIを阻害の程度を代理変数にして、HHIによるスクリーニングで許容するかしないか決めている。
例えば、公正取引委員会の企業結合ガイドラインでは、合併後のHHIと合併前後のHHIの変分をみて

  • HHI が1500以下
  • HHIが1500以上2500未満で、変分が250以下
  • HHIが2500以上で変分が150以下

の場合、企業結合が競争をただちに阻害することはないとして合併を認めている。

なぜHHIをみるのか?

最も教科書的な理解としては、HHIが産業全体のマークアップを示す代理変数だからだ。
それぞれ限界費用の異なるN企業が同質財市場でクールノー競争をしていたと仮定すると、
 \sum s_i \frac{p-mc_i}{p} = \frac{HHI}{\epsilon}
という関係がFOCから得られる。(sはマーケットシェア、mcは限界費用、εは需要弾力性)
HHIが高いほうが産業全体でのマークアップが高いので好ましくない、という論理だ。

より最近の論文では、例えば、Volker NockeとNicolas Schutzの論文, An Aggregative Games Approach to Merger Analysis in
Multiproduct-Firm Oligopoly,でHHIが企業結合による独占力増分の近似になっていて、社会厚生の阻害の度合いへの代理変数としても使えることを示している。

ただ、結局これらは「ある仮定のもとで理論的に正しい」ということで、HHIが合併審査に使われる実証的な正当性を与えているわけではない。
僕の知る範囲で、HHIで企業結合の是非を判断することに関する実証的な研究は存在しない。

HHIをどうやって測るのか?

実務上、HHIを測るのは容易ではない。
正直に書くと、あまり僕自身も詳しくない。

一般的に「市場」を誰の目にも明らかなように定義するのは非常に難しい。
例えば、マクドナルドのハンバーガーはどの市場に属しているのだろうか?マクドナルドがバーガーキングを買収しようとしたときに、HHIはどう計算されるべきだろうか?
市場を、「ハンバーガーチェーン」として定義すると、合併によってHHIはすごく大きくなりそうである。
一方で、消費者は容易に他のファストフードでマクドナルドを代替できるとも考えられる。マクドナルドのハンバーガーが高ければケンタッキーに行けばよい。そう考えると、マクドナルドが独占力を行使する余地も低いし、市場は「ファストフードチェーン」として定義されるべきかもしれない。
さらにいうと、消費者はファストフードチェーン以外にも外食のオプションがあり、それらはハンバーガーと代替的であるともいえる。
そうすると、対象とするべき市場は「外食産業全体」であるかもしれない。
それぞれのケースでHHIの値は大きく異なることが容易に推察される。

過去の例では、(合併ではないけど)アルミニウムの市場における過去の反トラストケースで、「新しく精製されたアルミニウムだけが市場」か「リサイクルされたアルミニウムも市場に含まれるか」が裁判で争われたこともある。
アメリカでは、問題になりそうな合併に際して企業側がエコノミストを雇うことが一般的だが、「いかに経済学的なバックグラウンドを使って企業側に有利なようにHHIを定義できるか」というのが彼ら腕の見せ所でもあると思う。

銀行という市場特有の問題

銀行の合併特有っぽい問題を考えてみる。

合併が競争に与えるのはどの市場なのか?

銀行が提供する財・サービスは、通常とことなる。
一方で預金者から預金を集め、もう一方でそれを貸し付けたり債権を買ったりする。仲介者としての役割が大きいと思う。
そのため、銀行の合併を考えるとき、両サイドを考える必要があると思われる。さらに貸出側を細かく分けると、

  • 預金市場に与える影響
  • 貸出市場に与える影響
    • 個人向け貸出
    • 中小企業向け貸出
    • Middle Market Lending(適切な日本語訳が見つからなかった)
    • 大規模貸出
    • 住宅ローン

あたりだろうか。

ちなみに、米国の銀行合併の審査では、FRBは主に預金市場を、DOJは預金市場・Small Business Lending・Middle Market Lending・Mortgage Lendingあたりをみてる。
より詳しくは、これに関しても後日記事を書こうと思う。


銀行合併はどの市場に影響を与え、合併審査はどの市場を重視するべきだろうか。
例えば、預金市場でのHHIが著しく増大するが中小企業融資のHHIは変化しないような合併があったとして、公正取引委員会排除命令を出すべきだろうか。
また、各市場をどのように定義すべきだろうか。

  • 融資市場をどう定義するか?
  • 地理的に市場をどう定義するか?

前者に関しては、貸出額や貸出先の売上やEBITAで分けることが多いと思う。
経済学の先行研究では、預金市場や中小企業向け融資は地域性が強い一方、大規模な貸出は地域性が薄いことが知られている。
実務的には、どう分けるっていうのはやっぱり難しい問題なんだと思う。
(米国では(FRBのレビューだと)かなり正確な”市場”の定義が規制側にも企業側にも明確に共有されている。)


そもそも競争がある方が好ましいのか?

銀行は他の財・サービスの市場と異なり、情報の非対称性が非常に重要である。
お金の借り手は貸し手に比べてより(事業の採算性や返済能力などについて)多くの情報をもっている。
そのような情報の非対称性が存在する市場では、通常成り立つような市場の良い性質が成り立たないことがよく知られている。

Financeの先行研究を掘れば死ぬほどいっぱい色んな論点が出てくると思うけど、貸出市場では貸手側の競争が必ずしもいいとは限らない。

  • 独占的に貸し出すことで借り手の情報を蓄積することができ、情報の非対称性を解消できる
  • 長期的な視点で考えると、貸し手側が競争的だと長期的な利益を見越した融資をするインセンティブが損なわれる。

後者は、例えばthe long term project mechanism と呼ばれてPetersen and Rajan (1995)とか Boot and Thakor (2000)で指摘されている。

また、通常のメカニズムに加えて、競争がないのが良くないっていう論点もある。
例えば、the Charter Value Hypothesisと呼ばれる仮説で、競争がないと銀行はよりリスクを取らなくなるのではないかという論点もある。

実証的には、競争の有無が銀行のパフォーマンスにどう影響するかっていうのは良くわかっていないと思う。

合併による効率性の向上

主な問題は、(競争の減少によるマークアップの上昇以外に)銀行はなぜ合併したいのか?ってことなわけだが、はっきり言って、(経済学的にって意味だけど)実証的になぜ合併が効率性を向上させるかってほとんど分かっていないと思う。

まぁ、はっきり言ってよくわからない。

合併を促すことの是非

企業結合に限らず衰退産業とか規模の経済が存在するような業界では、競争を抑制して企業間の協調を促すというのはたまにある政策だと思う。
例えば、

これに関しても、銀行に限らず結構色々な論点があるので、別の記事を書きたいと思っている。

経済学的ルーレット必勝法

ギャンブルに対する経済学的なアプローチは、参加者のバイアスを利用して勝つっていう方向性しかないと思う。
ギャンブルが基本的にゼロサムゲームである以上、「リスク回避的もしくはリスクニュートラルで合理的な参加者が(何かしらの意味での)均衡状態で参加している」ことを仮定したら、必勝法など存在しない。


経済学的なアプローチでギャンブルに勝つには、基本的に参加者が持つ認知や行動のバイアスを利用するしかない。
例えば、競馬とかだと、自分で予想のアルゴリズムを作って100%以上の回収率を実現している人もいる。
AIによる競馬予想とかも真面目に研究されてると思う。(例えばこれとか。)
これも基本的には、馬券を買う人たちが

  • 存在している全ての情報を適切に予想に利用することが難しい(認知のバイアス)
  • ゲンを担いだり、好きな馬の馬券を買ったり、必ずしも(期待値を最大化するという意味で)合理的に行動しない(行動のバイアス)

ことを利用している。

ルーレット必勝法

ここでは、僕が編み出したルーレット必勝法を紹介しようと思う。
僕は今まで二回カジノに行ったことがあるけど、実際二回とも5000円ぐらい勝った。
(少し先走ると、「小額勝った」というのも必然的な帰結だったかなと思っている。)

ルーレットのルール

簡単にルーレットのルールを説明しようと思ったけど、Wikipediaの記事でも読んでください。

前提条件

親戚がプロのギャンブラー*1だという友人に聞いた話なのでやや眉唾なのだが、どんなに運にしか見えないようなギャンブルでも、プロは素人相手なら必ず勝つことを求められるらしい。
大小みたいなギャンブルでも、ある程度は客のかけ方を予想して勝てるようにサイコロの出目をコントロールできるらしい。
ルーレットでも、客のかけ方を予想していて、ある程度だす数字を狙う*2らしい。嘘か本当かは知らないけど。


というわけで、以下の条件を仮定する。

  • ディーラは卓の参加者の賭けかたを予想できる。(当然、自分の賭けかたも読まれている)
  • 0と00の目の分だけディーラーは勝つが、ディーラーはそれ以上の確率で勝てるように出目をコントロールする
  • ディーラー以外の卓の参加者は必ずしも期待値を最大化するように賭けているわけではない。

当然だけど、教科書的な均衡概念からは逸脱する。上にも書いたけど、均衡分析を前提としたらギャンブルに必勝法など存在しない。

赤と黒しかない場合

純化して赤と黒しかない場合を考えよう。
ディーラーが参加者の賭けかたを予想して赤か黒を出しているとする。
ディーラは赤と黒、より賭け金の少ない方の色を出そうとするだろう。

例えば、ベットの終了間際、赤に1万円、黒に2万円賭けられているとする。
今自分が千円賭けるとしたら赤と黒どちらに賭けるべきだろうか。
ディーラーが勝つように出目をコントロールしていて、ディーラーの予想が平均的に正しいと仮定すると、平均的には赤に賭けた方が当たる確率が高くなるはずだ。

つまり、僕が提唱したい必勝法とは、「卓全体をみて、ディーラーが勝つような出目に賭ける」というものだ。
ディーラーが卓をコントロールしているなら、ディーラーと利害が一致するような賭けかたをすれば自分も平均的には勝てるはずである。

ここで注意したいのは、勝てたとしても必然的に小額しか勝てないという点だ。
例えば、上の状況で自分が2万円賭けようとしているとする。
自分が赤に賭けようが黒に賭けようが、自分が賭けた色の方が賭け金が大きくなる。
自分の行動もディーラーに読まれているとすると、今度はディーラーは自分の賭けた色と違う色を出すようにするだろう。
大金を賭けようと思うと、必然的にディーラーと利害が相反する。そこで勝つには、ディーラーの読みを外す必要があるわけで、それは素人には無理だろう。

結論

もし、ディーラーがランダムにギャンブルをプレイしていないのだとしたら、ディーラーと利害が一致するような賭けかたをすることで自分も勝てる可能性がある。

まぁ、色々書いたけど、実際のルーレットでは出目をコントロールするのは不可能っていう話もあるので、どこまで現実性・実用性があるのかは不明だ。
基本的には話半分に受け取ってください。
偶然かもしれないが、上にも書いたとおり自分はこの理論を二回実践して二回とも小額勝った。
ただ、実際のルーレットの賭けかたは複雑で、一見して何に賭ければディーラーと利害が一致するのか全然明らかじゃない。
実際自分が遊んでたときは、それを毎回考えるのに必死で、ギャンブルって言うより機械的な作業だった。
もっと素直に遊んだほうが楽しかっただろうなと思う。

*1:カジノに雇われていて、ディーラーやったり高額かけるお得意様が来たときに勝負相手になる人。勝負の結果に応じて歩合で給与もらうらしい。負けて借金負わされることもあるらしい。

*2:当然、それはディーラーの不正の可能性を意味する。客と組んで利益を上げられちゃうから。だからディーラー自身もカジノ側から監視されてて、客との結託を防ぐためにも同じ卓で長時間プレイすることはないし、結構頻繁に交代する。まぁ、全部“らしい”ってレベルの聞いた話だけど。

住居選択の経済学的考察:住宅ローン

家を買うことを検討するまで住宅ローンについて考えたことなかったけど、今(2019年3月)だと金利0.5%ぐらいでお金借りれるんですね。
すごくないですか?
実際に住宅ローンを検討してて思ったことは

  • ローンを組むにあたってかかる費用が銀行によってかなり違う
  • いくらの物件を買って、いくら借りて、いくらを頭金にするのかという意思決定がある

このエントリでは、

  • 実質金利による比較
  • 頭金の割合考察

について書こうと思う。

実質金利

住宅ローンの表面金利は比べやすいんだけど、一方で、手数料のかかり方が銀行ごとに違っていて比較がしにくかった。
例えば、楽天銀行では手数料が一律32.4万円、住信SBIネット銀行だと手数料が借入額の2.16%、三菱UFJ銀行だと保証料が借入額の2.06%でそれプラス手数料が3.24万円かかる。

手数料と保証料

まず、この両者の違いは、手数料は払ったら戻ってこない保証料は繰り上げ返済したら戻ってくるお金だという点。
ただ、保証料が戻ってくるといっても、あんまり戻ってこない。
保証料の細かい計算はよく知らないけど、銀行で聞いた感じだと、35年ローンを組んだとして

  • 5年で返済したら半分ぐらい
  • 10年で返済したら1/3ぐらい
  • 15年で返済したら20%
  • 20年で返済したら10%

もどってくるようだ。もし利率が同じで、手数料と保証料が同額なら、繰上げ返済する予定の人は保証料名目でお金を取られる商品が得だ
とはいえ、上で書いたように35年ローンを10年で返しても1/3しか戻ってこないし、あんまり保証料の返還には期待しないほうがいいと思う。

実質金利

表面の金利が明示的でも、手数料名目でお金を取られるか、保証料名目でお金を取られるか、手数料が借入額に対して割合なのか、一定額なのかによって実質的に払う金利は変ってくる。でも、それを簡潔に比べるいい方法があんまりない。
ぐぐって見つけた範囲では、ダイアモンド不動産研究所のこのサイトが一番便利だった。
ただ、借入金額3000万円、借り入れ期間35年を前提に計算しているので、そこが違うと必ずしも正確な比較にならない。
特に、借入額が大きくなると、手数料が一定額の楽天銀行が得になるんだけど、自分の借入額のケースでそれを評価しようと思うと結局自分で計算しないといけなかった。

というわけで、自分でエクセルで計算したときに作ったものを置いておく。(本当はMatlabでやったけど)
実質金利を計算することで、異なる条件の住宅ローンを同じ条件で比べることができるようになる。

A B C D E F G H
1 借入年数 表面利率  借入金額 保証料(割合) 手数料(割合) 手数料定額 実質利率 0にする値
2 35 0.005 6000 0.0206 0 3.24 0.006267 0.001394

実際の自分の借入予定に合わせてA2からF2を入力して、
H2に
= (C2 - C2*D2-C2*E2 -F2 - ( (1+B2 )^(1/12)-1)/( (1+( (1+B2)^(1/12)-1) )^(12*A2)-1)*C2*(1+( (1+B2)^(1/12)-1) )^(12*A2)/( (1+G2)^(1/12)-1)/(1+( (1+G2)^(1/12)-1) )^(12*A2)*( (1+( (1+G2)^(1/12)-1) )^(12*A2)-1) )^2
を入力して、G2に関してソルバーとかを使ってH2の値を0にするようなG2の値を求めると、G2に実質金利が出てくる。
上の表では、例として三菱UFJ銀行(保証料が借入額の2.06%、手数料が3.24万円)で表面利率0.5%のとき6000万円借りたときの実質利率を導出している。
保証料と手数料を合わせると0.6267%ということになる。
式の意味は説明を省くけど、コピペすれば動く。*1

ソルバーの使い方は、ぐぐって見つけてください。僕はここを見て勉強しました。
目的セルを$H$2、指定値を0、変数セルを$G$2にして解くだけ。ソルバーが分からなかったら、G2の値を少しずつ動かしてH2の値を0に近づけてください。

頭金の割合

よく「利子支払いを少なくするために頭金を増やしたほうがよい」っていう言説を見かけるけど、あまり同意しない。
例えば、検討している物件をキャッシュで買えるぐらい貯蓄があったとしても、与信枠ギリギリまで借り入れるべきだと思う。
なぜなら、

  • 貯蓄や他の金融資産を最小限にして頭金に使うのは、家計の資産構成を「家」に全振りしていることになる。リスクヘッジの観点から、できる限り家計の資産構成は分散するべきだ。住宅ローンレベルの金利(0.5%)はリスクのヘッジ料だと思えば高くない。余分な貯蓄は債権や株式投資に回すべきだ。
  • 住宅ローンの金利より利回りの高い投資なんて星の数ほどあるのだから、頭金の分ローンを増やして、そのお金を他に投資した方が得だ。極端な話、1000万円頭金に入れるぐらいなら、1000万円ローンを多めに組んでその1000万円を株のIndexファンドにでも投資した方が(35年の長期でみたら)よっぼど得だと思う。

変動金利か固定金利

そんなのは自分のリスク許容度を自問自答して決めるしかない。
僕は割りとリスクニュートラルなので、変動金利にした。
金利が大幅に上がったら、最悪頑張ってお金貯めて繰り上げ返済すればいいかと割り切った。

*1: 具体的には、以下のように計算している。まず、借入年数と表面利率から毎月の返済額を計算する。次に、実際の借入額から手数料を引いたものを「実質借入額」とする。最後に、毎月の返済額の割引現在価値が実質借入額に一致するような利率を実質利率として計算している。

住居選択の経済学的考察:賃貸VS購入 おまけ

前回の記事は、自分の意思決定の過程をトレースした内容を書いた。
一方、あんまり経済学的な感じもしないので、ちょっと経済学的なことを書いてみる。

イメージとしては、ミクロ経済学の期末試験で
「投資用区分所有マンションを購入する目的で銀行から融資を受ける場合の貸出利率を4%、住居用の購入のための住宅ローンの貸出利率は0.5%だとする。賃貸と住居用の物件購入を比べた時に、(自分や他者の住居に対する選好に関係なく)後者の方が得だと言えるような状況はあるか?理由とともに述べよ」
みたいなオープンクエスチョンがあったとして、どんな解答がありえるだろうか。


問いがあまりに漠然としているので、無数の解答が存在するだろう。
僕がここで使いたかったのは、「価格はマージナルな消費者のWillingness-to-Payで決まる」という需要と供給の基礎概念だ。

価格は、需要曲線と供給曲線の交点で決まる。逆に言えば、交点の周りの需要者と供給者以外は価格決定には関係ないのだ。
では、今自分が購入を検討している物件のマージナルな消費者とは誰か。
似たような物件を買っている人の中で、最もWillingness-to-Payが低い人だ。


ここで二つのパターンが考えられる。

購入を検討している物件は主に住居用に購入されている。

都心だったり、広い物件(70平米以上)の場合、僕のイメージでは結局買ってるのは実際に住む人のような気がする。
そういったケースでは、あまりこの考え方が役に立たない。
なぜなら、似たような物件を買っている人の中で、最もWillingness-to-Payが低い人のWillingness-to-Payを推察するのが難しいからだ。
多くの人は持ち家バイアスを持ってるように思う。他人の持ち家バイアスの金銭的な評価なんて、考えてもわかるものではない。
極端な話、「いくら払っても一戸建てに住みたい!」みたいな人が大多数を占めるマーケットでの価格は持ち家バイアスを多分に反映しているはずなので、自分にも持ち家バイアスがあり、なおかつそれが他の市場参加者より大きいという自覚がない限り、買うのは得策じゃないだろう。

購入を検討している物件は投資用に購入されているケースもある。

この場合、あまり深く考えなくても物件を買った方がいいように思う。
投資用の需要者が限界的な需要者である場合、彼のWillingness-to-Payは容易に推察できる。
なぜなら、投資用で買う以上、(家賃収入ー借入返済額)のフロー所得の割引現在価値がWillingness-to-Payであるはずだからだ。
そして、このことは、自分のWillingness-to-Payが価格より高いことを必然的に含意する。
住宅ローンが税制面でも利率の面でも優遇されている以上、例えば自分がその物件を買って自分に賃貸するという思考実験をした場合、限界的な需要者である投資家よりもリターンが高いことは明らかだろう。
賃貸で家賃を払い続けるケースと購入するケースを比べれば、購入の方が得なはずである。

結論

自分の検討している物件と似た物件が賃貸市場にも存在していて、ある程度投資用の市場でも取引されている場合、利率の面で投資家よりも有利な居住者にとってみれば、賃貸よりも購入が得なはずだ。
(そして、似た物件が投資用の市場でも流通しているかは、例えば楽待とかで調べることができる。)

他の市場参加者が合理的に行動していることを前提にすると、自分の意思決定のコストが減らせるという意味で経済学的な考察かなと思う。
一方、都心だったり一戸建だったりすると、収益物件として取引される割合は少ないっぽいので、あまり意味がない考察ともいえる。
そういう時は、諦めて自分のWillingness-to-Payをよく自問してみるしかない。

住居選択の経済学的考察:賃貸VS購入

賃貸VS購入なんて、ぐぐれば死ぬほど記事が出てくる。
一方、

  • フローとストックが混在した議論
  • 一般論に終始していて具体的な判断基準がない
  • 好みの問題を(金額ベースに落として)定量的に比較したものがない
  • 総額比較とかはあるけど、同じ物件に賃貸で住む場合と買い取る場合を比べてくれないとフェアでない

という点で全く納得できるものではなかった。
逆に、みんなはSUUMOとか読んで決められるの?

というわけで、以下では、「同じ物件を、賃貸と購入が選べる状況がある」として両者の比較を可能な限りフローで議論してみる。

結論

だいたい数年以上住むなら買った方が得

本論

以下では、年間のフローの観点を中心に賃貸と購入を比べる。
僕の場合、5年から10年住んで、家族構成やライフステージの変化に合わせて住み替えることを前提に購入を検討していた。
そのため、基本的には、「何年以上住むなら買ったほうが得か」というのがメインの比較テーマになっている。

よく比べられるのは、家賃とローン支払い額だけど、ローン支払い額はフローとストックが混ざった数字だ。
ここでは、僕が経済学的に比べるべきだと思うものを比べてみる。

賃貸

基本的には、家賃×12ヶ月分。
礼金とか更新費用とかも無視できないぐらい大きいけど、とりあえず無視。
この額は、都心だとだいたい物件価格の3%から4%ぐらいのようだ。
興味本位で市谷駅徒歩5分の新築億ションを見学に行ったのだが、販売員による説明では、物件価格12800万に対しての想定家賃は35万だそうだ。
35*12/12800 = 3.28%
一般に築年数が浅い方が利回りが低いので、この辺り(3.5%)を家賃のフローコストの下限としよう。
(収益物件検索サイト楽待で検索すると、都心の利回りは4%から5%のようだ。)
(少し先走るが、10年後の想定家賃も聞いてみたところ、30万と言われた。(35-30)/35 = 14.29%。年率だいたい1.4%の家賃下落を想定していたようだ。)

購入

購入で検討すべき要素は大きく分けて二つある。

  • 取引に関わるFrictionからくるサンクコスト
  • 毎年発生する実質的なフローのコスト

前者には、不動産取引に関わる費用と住宅ローンに関わる費用が存在する。
とりあえず、だいたい物件価格の10%ぐらいとされてる。
買って、将来的に売って住み替えることを前提にしているので、仲介手数料は2回分を想定している。
僕の場合、だいたい5500万円ぐらいの中古マンションを買ったのだが、不動産取引に関わる費用はだいたい以下のような感じだった。

  • 仲介手数料: 3% + 3万円 x2回分 = 6%強
  • 司法書士費用(登記含む): 1%弱
  • 不動産取得税 : 1%弱

住宅ローンにかかる費用も結構馬鹿にならない。複数の銀行を比較することが重要だった。
まぁ、ざっくり全部で10%を見積もろうと思う。

ここで強調したい論点は、Friction(取引摩擦)がないような状況で発生するフローのコストをどう算出するか。
経済学的に考えると、フローのコストは「取引費用が0の状況で、物件をフルローンで購入し、一年後に売却して、ローンを返す」という思考実験をしたときにかかる費用として算出される。
この時、考えられる費用は四つある。

  • 利子支払い
  • 管理費・修繕積立
  • 固定資産税
  • 物件の経年減価

最初の三つは明らかだろう。物件の経年減価は、「市況が同じだったとして、今買ったマンションの市場価格が一年後に何%値下がりするか」に相当する。
抽象的な概念である一方、概念的な理解は容易だと思う。
一方、実際それをどう測るかが問題である。

ここでは、二つのアプローチをとる。

  • 家賃が物件価格のファンダメンタルなので、経年劣化が家賃に与える影響から推測する
  • 中古マンションの取引価格のデータから直接推計する

両者ともに完ぺきではないものの、まぁある程度妥当かなと思う。

家賃の経年減少

前者については、家賃は「10年で1割、20年で2割下がる」と一般的に言われているようだ。年率1%。
もう少しまともなレポートだと、三井住友トラスト基礎研究所の「経年劣化が住宅賃料に与える影響とその理由」や総務省統計局のレポート(PDF注意)がある。
前者を参照すると、最初の10年ほどは年率2%、その後は年率1%弱で家賃は下がり、平均すると大体年率1%下がるようだ。

マンション価格の経年減価

一方、マンションの取引価格を直接分析した方が適切かもしれない。
やはり、三井住友トラスト基礎研究所のレポート「中古マンション価格の経年減価率:鉄道沿線別比較」を参考にすると、どうやら場所によって大きく差があるようだ。都心ではだいたい年率1.5%弱といったところか。

物件の経年減価に関する結論

都心のマンション購入を検討するにあたっては、1.5%をベンチマークにしようと思う。
ただ、

  • 場所や築年数によって数字が異なる(特に、場所は重要なようだ)
  • 上記の推定値自体が、近年の市況による影響を受けており、内生性によるバイアスの可能性もある。

という点に留意する必要があると思う。

賃貸VS購入比較

やっと賃貸と購入を比較できる。全体的に(賃貸有利な方向に)Conservativeに計算しようと思う。
まず、賃貸のフローコストを3.5%としよう。
次に購入側

  • おいおいの計算が楽なように住宅ローンの金利を0.65%とする
  • 修繕積立金の概算が難しいが、例えば家賃の10%(20万の家賃で月2万)とすると、これは物件価格の3.5% x 10% = 0.35%
  • 固定資産税は難しいんだけど、修繕積立を多めに見積もったからとりあえず無視
  • 経年減価率を1.5%とする

合計で、2.5%。
つまり、フローコストでは年間あたり1%購入した方が得ということになる。
実際の購入に際して、物件価格の10%がサンクコストだとすると、だいたい10/1=10年住めば購入した方が得という計算になる。

賃貸有利な計算をしたつもりなので、実際にはもっと短く住んでも得だと思う。
想定利回り(年額家賃の物件価格に対する割合)を4%で計算すると6.7年で得になるし。
そもそも、物件取得のサンクコスト自体も6%から10%なので、そこも賃貸有利に見積もっている。
(住み替えなければ、売るときの仲介手数料3%は考えなくていいし。)
固定資産税は無視したけど、住宅ローン減税とか礼金・更新費用も無視したので、その辺は相殺扱いということで。


結論としては、ある程度長く住めば購入の方が得だと思う。各自のケースで上の数字を合わせればケースバイケースで比較しやすいと思う。
ただし、将来の市況の動向は完全に無視した分析であることを付け加えておく。


結論

フローとして比べるべきは、
賃貸側

  • 想定利回り:月額家賃×12か月÷物件価格

購入側

  • 住宅ローン利率
  • 修繕積立金、固定資産税
  • マンションの経年減価率

そして、そのフローの差と、サンクコストと何年住む予定かを比べることで、賃貸と購入のフェアな比較ができると思う。

住居選択の経済学的考察

ひょんなことから、都心でマンション購入を検討することになった。
自分は経済学脳に侵されているのか、一般的な賃貸・購入のメリットデメリットみたいなものを読んでも全く納得できない。せめてフローとストックを揃えて議論してほしい。
ということで、自分で考えた。

前提条件

  • 経済学脳に侵されているので、将来の市況は既に価格に織り込まれているとする。
  • 複利と単利を混ぜて使うこともある
  • 一般性があるような書き方を目指すが、基本的には都心での賃貸とマンション購入の比較を前提にしている。

テーマとしては、

などを扱う予定だ。記事は逐次公開予定。